- 100%の営業小説!
- 舞台は三流住宅メーカー
- 売りづらい商品を売るための珠玉の名言
- ブラックながら営業の本質をとらえた台詞の数々
- 胸おどる営業クロージングの描写
- 非合理な買い物をするのが人間なんだ
- 追記:新庄耕氏の新作の題材は「ネットワークビジネス」だった!
- 備考:新庄耕氏の新作はブラック企業撲滅ストーリー「カトク ~過重労働撲滅特別対策班~」
- 追記:もう一つのブラック企業小説「御不浄バトル/羽田圭介」
- 備考:あらゆる悩みに対応したスゴ本はこれ!
- 備考:100%の営業漫画『契れないひと』が面白い!!
100%の営業小説!
人生の1冊なんて語るの無理。
なので「今週の人生に影響を与えた一冊」。
狭いなー。スパンが。。。。
とはいえ、これは珍しい「100%の営業小説」。
僕はブラック企業の営業というものを証明してみようと思う。
舞台は三流住宅メーカー
舞台は三流住宅メーカー。これはつらい。
簡単に売れるわけがない。
僕もマンションを7年前に買ったが、まず一生で一番高い買い物であり、絶対に失敗できない住宅という商品を聞いたこともないメーカーから僕は絶対に買わない。
住宅とは売り手と買い手の情報非対象性が最も大きい商材。
消費者は住宅の良し悪しを判断できない。
だから大手ディベロッパーの信用に人はお金を払う。
そこにプレミアム分の価格が上乗せされていることを承知で。
主人公の新入社員である松尾に売れるわけがない。でも売らないことには会社は存続できない。商品にイノベーティブな要素や差別化要素なんてない。むしろ劣悪な城南地区の狭小物件を売らなければならない。必然的に会社はブラック化する。
売りづらい商品を売るための珠玉の名言
ブラック上司の親玉が名言を吐く。
ある意味、営業の本質をついた一言を。
「いいか、不動産の営業はな、臨場感が全てだ。 一世一代の買い物が素面で買えるか、 臨場感を演出できない奴は絶対に売れない。 客の気分を盛り上げてぶっ殺せ。 いいな、臨場感だ、テンションだっ、臨場感を演出しろっ」
— 狭小邸宅bot (@kyosho_teitaku) 2015, 9月 22
これは真理だ。
僕がマンションを買ったのもこれが理由かもしれない。
大手ディベロッパーの営業との商談だったんで、えぐいクロージング等は一切なかった。
僕たちはいくつかの候補物件のアタリを付けている段階だった。
その営業マンは一枚の写真を僕たちに見せた。
僕たちは最上階の物件の購入を検討していた。
見せられた写真は竣工途中のその部屋から外の眺望を移した写真だった。
その瞬間に漠然とした物件イメージがリアルなものへと変貌をとげた。
一気にテンションがあがった。その眺望は素晴らしいものだった。
住宅なんていう高額商品は理性では売れないし、消費者も買えない。
大脳新皮質では買わない。
本能の脳といわれる大脳辺縁系で買う。
本能で衝動的に買い、後から「買った理由」を左脳で作り上げる。
ブラックながら営業の本質をとらえた台詞の数々
「セリング(プッシュ型の営業)を不要にするのがマーケティングだ」とドラッガーは言った。それは本質論だが現実論ではない。世の中の会社が全てアップルになれるわけではない。99.9%の会社の商品はコモディティである。イノベーティブな商品なんて持っているわけがない。そもそもイノベーティブな商品がボンボン生まれれば、それはもはやイノベーティブとはいわないだろう。
僕はブラック企業が悪いとは思わない。もちろん程度問題だし、暴力的な会社はアウトだ。それは法律違反だから。でも企業の本質はブラックだ。商品の本質的な差異がないなかでは、営業時間の長さもブラックな体育会系な気質も差別化の有益な手法だろう。
「売るだけだ、売るだけでお前らは認められるんだっ、 こんなわけのわからねえ世の中でこんなにわかりやすいやり方で 認められるなんて幸せじゃねえかよ。最高に幸せじゃねえかよ」
— 狭小邸宅bot (@kyosho_teitaku) 2015, 9月 21
「いいじゃねえかよっ、わかりやすいじゃねえかよっ、 こんなにわかりやすく自分を表現できるなんて幸せじゃねえかよ、 他の部署見てみろ、経理の奴らは自己表現できねぇんだ、 可哀想だろ、可哀想じゃねえかよ。」
— 狭小邸宅bot (@kyosho_teitaku) 2015, 9月 19
中盤まではブラック企業に耐える松尾の描写に終始し、蟹工船的な様相を呈しているが、松尾は反抗も革命も起こさない。むしろ会社や営業のノウハウを吸収し、売れる営業マンへと変貌を遂げていく。これは若者の成長ストーリーを描いた小説ともいえる。
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胸おどる営業クロージングの描写
いかに理性を吹き飛ばし、三流メーカーの住宅を買わせるか。
そのための海千山千の営業テクニック。
「まわし物件」を紹介しつつ、ここぞというタイミングで本命物件を出す間合いとタイミング。「
かまし」と言われる自作自演の電話テクニック。
喉から手が出るほど契約が欲しいのに、あえて押さないトーク術。
一般庶民風の顧客が契約書にサインする瞬間、僕はドキドキした。
初めての受注はなるのか。
主人公の松尾の緊張感。
一生で一番高い買い物をする顧客の鼓動。
どんな壮絶なギャング同士の銃撃戦より、絶世の美女とのラブシーンよりも興奮した。
非合理な買い物をするのが人間なんだ
僕自身も賃貸派だった。住宅購入なんてナンセンスだって思ってた。
金融商品として筋が悪いものだってね。
でも住宅は金融商品じゃなかった。
保険商品だったんだ。
団体信用保険が適用されれば、仮に僕が死んでもローンはチャラになる。
奥さんは言った。
「ローンされチャラになれれば、うちの子を成人させることは何とか私だけでもできる。だからマンションを買うべきなの」。
僕は観念した。
それが僕が35年ローンを抱えて6500万円のマンション購入を承諾した。
ここには、ささやかだけど鬼気迫る小さな物語がある。
我が子を成人させようとする愛と女性のしたたかさ。
高知で住宅購入派をディスってるイケダハヤト氏のペラペラのオピニオンには無いリアリズムがある。
この小説は様々な想いを持ちながら住宅購入に踏み切った人々にとって、堪らない100%の住宅購入小説だ。
僕はまだまだ膨大に残った住宅ローンを抱えながら、愛を証明してみようと思う。
【おわり】
新庄耕『狭小邸宅』読んだ。文庫でも200pに満たないなか、小説の醍醐味が詰まった一冊。随所の不動産営業業界ならではの台詞、登場人物の興味深さは言わずもがなで、成功とその裏腹はまぎれもなく青春小説。 / “狭小邸宅 (集英社文庫)…” https://t.co/irloHfO1HD
— 祭谷一斗 (@maturiya_itto) 2016, 1月 20
小説『狭小邸宅』、端々のセリフがキレててちょっと気になる。
— 祭谷一斗 (@maturiya_itto) 2016, 1月 18
久しぶりに小説読んだ。狭小邸宅。 臨場感があって、ぐいぐい読んでしまった。数年社会人かじった人におすすめ。
— やましん (@1rok) 2016, 1月 8
一気に読んだ。狭小邸宅。現代の青春小説だな、これは。
— toshio TAKATA (@toshitaka12) 2015, 11月 29
追記:新庄耕氏の新作の題材は「ネットワークビジネス」だった!
新庄氏の新作「ニューカルマ」も必読。僕も即座に購入。書評はこちら。
備考:新庄耕氏の新作はブラック企業撲滅ストーリー「カトク ~過重労働撲滅特別対策班~」
本書「狭小邸宅」では、ブラック企業の営業マンを主人公に据えたが、新作「カトク」では、逆にブラック企業を取り締まる東京労働局の職員を主人公にストーリーが進む。
「狭小邸宅」の舞台のようなブラック系不動産会社に立ち向かう主人公。
実際に自殺者を出した巨大広告代理店も登場する。
広告業に身を置く僕にとっても、リアルティー抜群!!!!
やっぱり新庄氏の小説はおもしろーい!!!!
追記:もう一つのブラック企業小説「御不浄バトル/羽田圭介」
「・・・じゃない方の芥川賞作家」である羽田圭介氏。
彼の「御不浄バトル」も面白い。
トイレという癒しの空間でメシを食べ、掲示板に会社の悪口を書き込み、ダッチワイフで自慰をする主人公。
悪徳教材販売会社を舞台とした不条理小説。
これはマジで面白い。
羽田圭介「御不浄バトル」。ブラック企業に勤めて1年半になる大卒男子。精神状態のバロメーターが便意(と時に性欲と自慰行為)によって描かれていくという、文字にしてみると謎の作品。でもこれが意外なほどすんなり普遍化されていて、安定周期で便意が来ないと同情する覚えてしまう。これも不思議。
— Yosuke_Takahashi (@ringlinks) 2016, 1月 6
羽田圭介『御不浄バトル』文学賞取るような作家の本読も〜って思って一番面白そうなタイトルのを買ったらハチャメチャに面白かった。ブラック企業に勤める僕のトイレ小説。壁に赤字で標語が貼ってあるタイプのオフィスで面接の順番待ちをしながら読んだので、たぶん百倍面白かったしスリルがヤバかった
— Parterre (@doandrelsh) 2015, 12月 21
備考:あらゆる悩みに対応したスゴ本はこれ!
仕事の悩み。お金の悩み。家庭の悩み。子供の教育についての悩み。
あらゆる悩みへの解決の糸口になるのが、経営学者である楠木建氏の「好きなようにしてください」だ。
経営学者の視点が凡人の煩悩あふれる質問をバッサリと切っていく爽快感。
そして人生の指針を与えてくれる言葉の数々。
心からおすすめ。絶対に損しないから買うべし!!
備考:100%の営業漫画『契れないひと』が面白い!!
訪問販売の営業マンを主人公とした営業漫画。
商材はベタベタな英会話教材。
とにかくユニークな描写とトガッた笑い。
「仕事って大変だけど、いいよなー!!」と感じさせてくれる一冊。
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