日本に起こっている戦争と内戦
「老人喰い」。本書は高齢者を狙うオレオレ詐欺集団に関しての綿密な取材に基づいたルポタージュだ。だが本書が紹介しているのは「詐欺の高度化されたテクニック」ではない。(もちろんそこも精緻に描かれているが。。。)本書で描かれているのは、日本に起こっている戦争。内戦。それこそが本書のテーマだ。日本に存在する“平坦な戦場”。
平坦な戦場で僕らが生き延びること
(出典:岡崎京子)
若者と高齢者の世代間の静かな戦争
下記にあげているのが、飢えた若者が自らの詐欺を正当化するための論法だ。もちろん「ただの屁理屈」ともいえる。だがそれを完全否定できない自分がいるのも確かだ。何も持たない若者。閉塞感のある社会。どう考えても今日より明日が良くなるなんて誰も言えない社会。「ポジティブ思考で未来を切り開こう!」なんて誰が言える?
彼らと接していると、思い浮かぶのは砂漠の夜だ。想像してほしい。彼ら若者たちは、砂漠の中で渇いている。周囲にはすでに枯れたオアシスと、涸れた井戸があるのみ。今後雨が降る気配もなければ、自分たちで新たに井戸を掘るだけの体力も彼らに残されていない。ただただ彼らは、夜露をすすって乾きに耐えている。
だが彼らの横には、水がたっぷりつまった革袋を抱えた者たちがいる。これが、高齢者だ。
彼ら高齢者は自らの子供や孫には水を与えるかもしれないが、その他の若者には決して水を与えない。水を「貸し与える」ということもしない。少しの水を分けてやるだけで、彼らは自分たちで井戸を掘り、新たなオアシスをつくるかもしれないのにだ。
ならばどうなる。渇き切った若者たちは、いずれ血走った目で高齢者の抱える水袋を奪いにかかるだろう。
(出典:老人喰い/鈴木大介)
彼らは既得権益を持った老人から金を奪う。でも本書の若者達は金に飢えているわけではないようだ。彼らは「金持ちになって車、女、贅沢な暮らしをするぜー!!いえーい!」って分りやすい成金的な意識が希薄にみえる。ただ「奪いたい」のだ。
大きな誤解を解いておきたい。高齢者を狙う犯罪とは、高齢者が弱者だから、そこにつけ込むというものではない。圧倒的経済弱者である若者たちが、圧倒的経済強者である高齢者に向ける反逆の刃なのだ。
(出典:老人喰い/鈴木大介)
詐欺集団の若者は目立たぬよう地味なスーツに身を包み、電車で朝8時には事務所に集う。休憩時間はわずかだ。そして派手な遊びは禁じられる。目立つからだ。警察に目をつけられる行為をストイックなほど禁じる生活をする。
彼らをストイックな詐欺マシーンへと変身させるための教育セミナーでは、講師がこんなことを語る。本書では日本で起こってる戦争の様子が詳細に語られていく。そして平凡な若者がゲリラの戦士になるためのトレーニングの様子も詳しく語られている。
「現代の高齢者の平均預金額は、2000万円だ」
「死ぬ時に使い切れずに残すのは、不動産なんかも全部込みの額で平均3000万円だ」
「日本中の金を持ってるこいつらが金を使わないから、ますます若い人間は働いても働いても、貧乏から抜け出せねえ」
「若い人間が食えなくてヒイヒイ言っている中で、金もってふんぞり返ってるこいつらから、たった200万程度を奪うことに、俺は一切の罪悪感を感じない。むしろ俺はこの仕事を誇りに思ってるよ」
(出典:老人喰い/鈴木大介)
(※ただ本書はエンタメ作品としても良いデキでグイグイと読ませる秀作だ)
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「老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体/鈴木大介」のTwitterランドのクチコミ&評判
『いわば彼らは、「経済的ゲリラ」。民衆の貧困など素知らぬ顔の貴族階級に刃を向けた中世の民衆と全く同様のルサンチマンを胸に、老人喰いを率先して行う。 』
— 物々交換所 (@koukanjyo) 2016年3月5日
【『老人喰い―高齢者を狙う詐欺の正体』特設サイト 筑摩書房】 https://t.co/gxvx2IoR5v
平成27年度、特殊詐欺の被害総額は476億円、これは2017年度の電子雑誌の市場規模予測(430億円)よ...『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体 (ちくま新書)』鈴木 大介 ☆3 https://t.co/xsjSvurODV 「ブクログ」
— 水野 哲 (@mizutetsu1981) 2016年2月27日
『老人喰い』を読んだ。青春小説のように描かれていてとても面白かった(とくにヤクザの影響力が御法度の詐欺ビジネスにどんどん浸透してくる後半の展開)し、趣旨は説得的だけど共感は全くできなかった。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』みたく映画化したら良いのではないかと思った。
— 森岡勝彦 (@hikom) 2016年2月12日
現代の義賊か? 鈴木大介『老人喰い―高齢者を狙う詐欺の正体』を読む - 関内関外日記 https://t.co/BZapQSjZop
— m_um_u (@m_um_u) 2016年1月26日
『老人喰い』という新書、振り込め詐欺の研修描写が面白すぎる。
— 一般の男性 (@gakujin) 2015年12月25日
僕は戦争を止める処方箋を見つけた!
乾いている。そして冷たい世界。なぜ彼らはこれほどまでに乾ききってしまったのか。世代間の戦争を止める手立てはないのか。世界は終わってしまったのか。
太陽はなぜ今も輝きつづけるのか。鳥たちはなぜ唄いつづけるのか。彼らは知らないのだろうか。世界がもう終わってしまったことを。
(出典:世界の終わりとハードボイルドワンダーランド/村上春樹)
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いや、何らかの答えがあるはずだ。僕は処方箋を見つけた。その答えは僕の書斎の壁の一枚の紙に無造作に書いてあったんだ。
謎の暗号文。そこに世代間の溝を埋めるヒントがあったんだ。
これは「敬語」じゃないか!
僕たちはなぜ敬語を使うんだ?
親切らしさが伝わる?
お年寄りに対しての言葉?
敬語を使うと親切らしくて・・・・
お年寄りも親切になる?
世界は喪失、欠如、不在、消失に満ちているわ。そして暴力。
それだけで世界はぱちんとはじけそうよ。
でも思考とエクリチェールと愛だけがそれを救済することができるのよ。(出典:岡崎京子)
暴力に満ちた社会で敬語を使い、相互理解が実現するのか。そうなのか。
大変よくできました!
僕はなんとか詐欺集団に加わることなく、人生をサバイブできそうな気がしてきた。おやすみなさい。良い夢を。
(おわり)
備考:本書のインデックス
◎第1章:老人を喰らうのは誰か/高齢者詐欺の恐ろしい手口
会社員風の若者たち/彼らは誰を狙っているのか/高齢者詐欺の驚くべき進歩/三役系の騙しのロジック/下見調査が可能にする詐欺シナリオ/被害者の心理は知り尽くされている
◎第2章:なぜ老人喰いは減らないのか/(株)詐欺本舗の正体
詐欺の店舗が開業するまで/名簿は食材、プレイヤーは料理人/金主は絶対に逮捕されない/万が一で店舗が摘発に及んだら・・・
◎第3章:いかに老人喰いは育てられるか/プレイヤーができるまで
平手打ちの飛ぶ研修/「ダミー研修」による選抜/営業研修スタート/拷問のような研修の狙い/コンビニ前の人間観察/ドライブ研修の終わりに/詐欺はそもそも犯罪か?/金を持った高齢者と、金のない若者の国/老人喰いの大義名分/番頭格の発するオーラ
◎第4章:老人喰いはどのような人物か/実例からみた実像
激変するプレイヤーの素性/闇金系融資保証金詐欺プレイヤーからの転業/ブラックじゃない営業職があれば教えてほしい/大学は詐欺じゃないんですか?/圧倒的貧困地域に生まれて
◎第5章:老人喰いを生んだのは誰か/日本社会の闇のゆくえ
老人喰いはダークヒーローなのか/カスになるまで使い尽くせ/激変する詐欺の勢力図/詐欺組織に生まれた綻び/詐欺の内部崩壊の時代/浪費される人材と才能
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